『博物館と自分史 場・機会を活用する』の講義で12年の活動を振り返りました。

一般社団法人自分史活用推進協議会からの依頼で、自分史活用アドバイザー向けの2024年4月度勉強会の講師をつとめました。

(4月23日(火) 18:00-20:00、オンライン/Zoom)

事前にご案内した趣旨

博物館/ミュージアムは、私たちが生きてきた世界から選びに選び抜いたモノを収集し展示しています。その一つ一つのモノに、あるいは博物館が紡ぐストーリーに、私たち一人一人の歴史も接点を持っています。自分史を探究していく過程では、コトバにはならない、あるいは無意識の記憶を発掘することもあるでしょう。博物館をその一助にすることができるかもしれません。

さて、講師が「自分史」への関心を強めたのは約30年前です。その後様々な取り組みをする中で、理由ははっきりせぬまま「博物館」も気になる存在として浮かび上がってきました。個人の歴史と社会の歴史はどのような結びつきをしているのか、そしてそれをどのように受けとめればいいのか、講師が深めてきた個人的な考えの中間報告をいたします。

講義の中では、自分史の活用を広めるために運営しているワークショップ「自分史カフェ」の活動の中から、博物館/ミュージアムと接触があった事例もご紹介します。

あらすじ

このテーマで講師をお引きうけした経緯

自分史カフェのワークショップで使っている「ライフチャート」を用いて自己紹介をし、”自分史”と博物館”に関心を持ったきっかけをお伝えしました。

講師は19年ごとに人生のフェーズを切り替えてきました。この4月はちょうど第4紀の始まりのタイミングです。第3紀に取り組んできた『博物館と自分史』の活動については紀の最終年だった昨年に(一社)自分史活用推進協議会に表彰していただき一つの区切りができました。勉強会講師の依頼をうけ、整理をするよい機会と考えました。

受講してくださる自分史活用アドバイザーの皆様は、それぞれが多彩な活動をされています。「博物館と自分史」について何かしら汎用的で確固とした枠組みや理論のお話はできませんが、10年以上にわたって試行錯誤をしてきた活動の事例をお聞きいただくなかで何かしらヒントになることを拾ってもらえたらと期待しています。

知らない自分

概して自分のことはよく知っていると思いがちです。しかし、錯覚の例(トロクスラー効果)や虹の色数の認識の国による違いなどを挙げ、個々の人の認知には様々なバイアスがかかっていることを体感してもらいました。

それを踏まえ、いつもとは違う刺激を浴びて意識下に隠れていたことを発掘する場・機会として博物館に関心をもってもらおうと思います。

ことばと自分史

私たちはことばを知らずに生まれてきます。1歳を超える頃からことばとモノのつながりを学び始めますが、その前の乳児期の認知はことばを介さずに発達します。

この時期の記憶を言葉にして表現することを試みる事例として、講師が毎年大学の授業でお手伝いをしている「自分史展覧会 乳幼児期編」の事例を紹介しました。

そして、大人にとっては既に当然のこととなってしまったことばへの依存や、今いる時点から過去と未来を見渡した時の時間軸の尺度について一度意識的に考えてみることをお勧めしました。

なお、講師は、博物館の研究に取り組む中で、「博物館とは結局何なのか」「どうして博物館は作られて、そして続いてきたのか」について考え続けてきましたが、今回自分史とのかかわりを再考する中で、「モノとコトバを接続する場」なのではないかという仮説をたてることができました。

歴史・民俗・郷土博物館で自分史

ここからは、講師が実践してきた事例の紹介が中心となります。まずは、実際に博物館施設を開催場所にしたり、博物館等の資料を活用して開催した自分史のワークショップを紹介しました。

このあと、講師が30年以上前に住んでいた地域に足を運びすっかり変わってしまった町並みの代わりに博物館を訪れた体験談を加えました。歴史・民俗・郷土博物館は、博物館の中でも一番数の多い館種です。受講者にも身近な博物館をイメージしてもらえるようにいくつかの館を紹介しました。

<その他、場としての博物館の紹介>

  • 葛飾区郷土と天文の博物館(東京都葛飾区)
  • 琵琶湖博物館(滋賀県草津市)
  • 湯布院昭和館(大分県由布市)
  • 国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)
  • 江戸東京博物館(東京都墨田区)

図書館などいろいろな施設で自分史

他にも全国で活用できる施設、オンラインで活用できるライブラリーなども紹介しました。

戦争関連の博物館で自分史

地域に密着した共通の記憶として、先の大戦ででの全国の多くの都市での空襲が挙げられます。その記憶は、戦災記念館等の展示や、聞き書きの記録等のかたちでのこされています。

  • 長岡戦災資料館(新潟県長岡市、2019)

また、兵隊として動員された若者たちの記録は、その年代として追体験することができるかもしれません。

企業博物館で自分史

企業博物館は、地元に密着した公立の博物館とは違った視点を与えてくれます。提供するサービスや商品の中には、個々の自分史と結びつくものもあるのではないでしょうか。

講師自身の自分史に直接結びついた事例があります。

  • トヨタ博物館(愛知県長久手市、2014)
  • Honda Collection Hall (モビリティリゾートもてぎ内)(栃木県芳賀郡茂木町、2020)

その他の企業博物館の例も紹介しました。

  • 鉄道の博物館 大宮/京都/他
  • 江崎記念館(大阪、2018)
  • まほうびん記念館(大阪、2018)
  • ブラザーミュージアム(名古屋、2024)
  • クロネコヤマトミュージアム(東京都品川区、2021)  (見学者の”コト”の記憶喚起の事例として)
  • 神奈川県立川崎図書館 社史フェア(2023)

世代間の理解

世代を超えて共有される貴重なモノとしては、たとえばロングセラーの絵本や児童書があります。

  • ちひろ美術館・東京(東京都練馬区)
  • 国立国会図書館国際子ども図書館(東京都台東区)

その他の事例も共有しました。

  • 企画展「ポケモン化石博物館」 国立科学博物館(2022)、他/巡回中
  • 石ノ森萬画館(宮城県石巻市、2016)

参考 人物記念館

  • 手塚治虫記念館(兵庫県宝塚市)
  • 阿久悠記念館(東京都千代田区、明治大学内)
  • 『人物記念館の旅』 久垣啓一氏(多摩大学名誉教授、協議会名誉顧問)

おわりに

「博物館」ならではのことは何か、またどうしたらさらに楽しめるのか、投げかけました。

最後に、年代による「流動性知能」と「結晶性知能」の能力の推移を参照し、それぞれの年代ならではの楽しみ方の可能性があることを示して講義を終了しました。